医師、特に外科医の減少について
最近は外科医不足がよく問題に上がりますが、外科医の減少についてはどうお考えでしょうか。
困った状況ですよね。確かに、外科医として一人前になるには厳しい修行がいりますし、手術をするから給料が上がる、というわけでもないですからね。しかも訴訟リスクも高いときたら、「格好良さ」よりも「恐ろしさ」のイメージの方が強くなっているのでしょう。
けれども先ほどお話したように、患者さんとのコミュニケーションをきっちり行う、という基本が出来ていないために起こるリスクやクレームがたくさんあるんです。とにかく、外科医が少なくなるのは健全な世の中とは言えないですね。これからますます手術を受ける患者さんも増え高いニーズがある外科に挑戦してほしいです。外科医は、病気を治すことの喜び、患者さんの苦しみを取り除くことのできる素晴らしさを誰よりも肌で感じられる、そんな仕事ですから。
やはり困難以上に喜びも大きいお仕事だと思います。けれどもせっかく医師や看護師になったのに途中で離職してしまう人も最近は多いと聞きますが先生はどうお考えですか?
そうですね。とにかく今、日本はまさしく「医療混迷」と言われる状況にありますので、不安材料も多いと思います。けれども、私が伝えたいことは、もう一度“原点”に戻ってみること。むかしあるところに怪我人や病気の人がいて、それを可哀想だと感じ、治してあげたいと願い、お腹をさすってあげたり、傷口を押えてあげたり、そして治った人を見て喜ぶ、これが医療の原点なんですよ。こう思う人々がだんだん集まり、医師という職業ができ、病院という建物があらわれたんです。
「治す」喜び、「頼られる」嬉しさといった、人としての素直な気持ちを追及することが、仕事を楽しめる一番の方法だと思うんですよね。
「課外授業ようこそ先輩」の中で
どの職業でも、純粋に仕事を楽しむことが大切ですよね。話は少し変わりますが、先生の著書「課外授業ようこそ先輩」の中で「病院は生きている」という言葉がとても印象的だったのですがそのことについてお話いただけませんか?
患者さんというのはそもそも苦しんでいたり、辛かったり、不安な気持ちになっていますから、病院の雰囲気ってすごく重要だと思うんですよ。理想を言うと、患者さんが一歩足を踏み入れると、ホッと安心し、「ここで病気が治るんだ」というイメージを持たせるような雰囲気作りですね。そのためには病院経営者のトップが、そういう病院のイメージをはっきりと持つことが大切だと思います。
そしてそのイメージにスタッフ全員が応え、病院に対しても患者さんに対しても「愛情」を持つこと。だって患者さんは、たくさんある病院の中からわざわざうちを選んでくれたんだから。自分たちの病院を選び、命を預けてくれた患者さんにありがたく感謝する気持ちになってこそ、理想の雰囲気が作れるんじゃないかと思うんです。
なるほど、病院の雰囲気作りには経営者とスタッフのチームワークが大切ですね。
そうですね。その為には病院で働く人が目的と情報を共有することは基本だと思います。この患者さんをどう治療しようか、どのようにハッピーにさせようか、そのためには何が必要なのか、ということを指導できるリーダーが必要ですね。病院経営者だけでなく、それぞれの部署のリーダーが各セクションでリーダーシップを発揮し、目標を明確にしてあげる。目標イメージがはっきりしていると、仕事していても不思議と疲れないんですよ。
一般企業でも理念経営の大切さが謳われるように、理念や目標が仕事をしていく上で支えになるということを、私たちも感じています。では、これから医師を目指す方や、医師として頑張っておられる方に何かメッセージをいただけますか?
先ほどもお伝えしたように、医師になろうとする人も、医師の仕事の中で何か行き詰っている人も、まずは「原点回帰」が大切です。「治したい」「助けたい」という、人間が持つ素朴な願望に素直になること。自分がハッピーにならないと、患者さんもハッピーにできないですからね。国の体制だとか、制度だとか、環境だとか、言い出すときりがないんですよ(笑)。
自分を頼ってくれる患者さんがいる限り、「明日はもっと進歩しよう」という向上心と、クリエイティブな発想を持つことができたら、自分自身が今からでも出来ること、始められることはたくさん見つかると思います。そしてそんな気持ちから生まれるクリエイティブさこそが、医師である自分自身を支えていくのに最も必要なマインドではないでしょうか。
ありがとうございました。
クリエイティブな発想を持つ―。そのマインドが、医療という世界で飽くなき探求心と困難に挑戦する勇気を得る“秘訣”ともいえるのではないか。須磨久善医師の「神の手」は生まれ持った運や才能だけではなく、常に高い目標に向かって努力し学び続けた姿勢の結果であろう。何のために仕事をするのか、自分はどうなりたいのかという原点回帰の大切さを、医療現場ではなく一般企業で働く私たちも再度振り返させられる、そんな須磨先生との会話だった。
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